2022/09/24

第1回理研鼎業イノベーションワークショップ

第1回理研鼎業イノベーションワークショップ
~日本のものづくりの未来を考える~

目次

1.自己紹介・基調講演

2.ワークショップ

3.まとめ

1.自己紹介・基調講演

【開催経緯】

2022年2月4日、第1回 理研鼎業イノベーションワークショップ~日本のものづくりの未来を考える~を開催しました。本イベントは当初2021年2月開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための措置等を受け、1年越しでの開催となりました。対面ではなくオンライン形式でのイベントとなったものの【研究者、理研鼎業コーディネーター、企業様同士で交流をしながらワークショップを体験し、交流を行う】という目的がしっかりと達せられ、満足度の高いワークショップとなりました。

当日の様子をご紹介します。

【はじめに、自己紹介】

はじめに、理研鼎業代表取締役社長 油谷より開催に先立って挨拶と自己紹介をいたしました。続いて、約1時間をかけて理研鼎業のコーディネーターと企業様の参加者より自己紹介及び自社紹介を頂きました。今回は、オンライン開催となったため、会員同士、そして理研鼎業のコーディネーターとの交流を促進するため、敢えて長い時間を割いて行いました。オンラインイベントは対面イベントよりも交流を深めるのが難しい印象もありますが、今回は各企業の強みや現状の課題をお互いに理解したうえでワークショップに臨むことができたため、アイデアブレストがより有意義なものとなりました。

【基調講演】

ワークショップに先立って、国立研究開発法人理化学研究所 光量子工学研究センター 先端光学素子開発チーム/技術基盤支援チーム チームリーダー山形豊先生より基調講演を頂きました。

『理研のものづくり技術と応用の可能性について』

理化学研究所(以下理研と略)は、科学技術に関する総合的な研究開発を行っている研究所です。研究開発分野は設立当初は物理学、化学を主としていましたが、現在は生物学、生化学、医学、工学など多岐に渡っています。人員面はもちろん、設備面でも、国内で最大級の国立研究拠点のひとつです。

私が所属している先端光学素子開発チームでは、先端素子の設計や加工、計測、シミュレーションを行っています。一般の企業とは異なり、特殊な光学素子を作ることがほとんどです。単に研磨するだけでなく、超精密研磨加工装置を用いて非球面、あるいは微細な溝などを有する形状の加工を得意としています。

もうひとつの所属である技術基盤支援チームは、理研の試作工場として、他の研究者が欲しいけれど市販されていない機械や装置を設計・工作する役割をするセクションです。場合によっては他の企業に外注をしたり、コンサルティングを行ったりしています。こちらのチームは理研の中でも最も歴史が古い部署です。理研は大正6年創立ですが、それから5年も経たないうちに技術基盤支援チームの前身である工作係が設立されています。

すでに、理研としても外部の企業に協力を仰ぎながら行っている業務もあり、連携が進んでいる面もあります。一方で、基礎科学研究に必要な機器の設計手法やノウハウは、研究者しか知らない点も少なくないため、理研でしか作れない物もあります。一般企業には日本国内だけでなくグローバルな市場を視野にいれていただきながら、よりよい協力、連携を引き続き検討していきたいと考えています。

【質疑】

講演後の質疑では、参加者から工作室の見学は可能かという質問が挙がり、山形先生からコロナが落ち着いた頃に見学会を実施してはどうかとのご提案を頂きました。コロナが落ち着いた頃に、皆さまにご案内致します。

2.ワークショップ

基調講演後、ワークショップを実施しました。

オンライン開催ということもあり、PowerPointを用いてワークスライドを共有しながらのワークショップとなりました。今回、アイデア出しのフレームワークには【いのべ場】という手法を用いました。いのべ場とは【「型にはまらないアイデア」を「型にはめて考える」】というコンセプトに基づく、株式会社JSOLが考案したワークショップの方法論です。ワークショップを通じて、イノベーションを誘発する仕掛けになっています。今回は、かなえ共創会員8名と理研と理研鼎業10名を3チームに分けて、各チームにJSOLのサポーター1名が加わりました。

【チームビルディング】(10分)

始めに自己紹介を通してチームビルディングを行いました。名前や所属だけでなく、自分の強みや興味を挙げてもらい、チームで共有しました。時間の関係でワークショップに参加できなかった2社にも会社紹介をしていただいています。

【要素分解(テーマ分解)】(20分)

チームビルディングの後は要素抽出を各チームで行いました。今回のテーマである「日本のものづくりの未来」に関連する6つのサブテーマ(生産・計測、材料・調達、デジタル、環境、人材、その他)を羅列したシートをチーム全員で共有し、サブテーマから思いつくキーワードを出来るだけ多く抽出する工程です。

【アイデア検討】(20分)

次は個人ワークで「日本のものづくりの未来とは?」のテーマのアイデア創出を行いました。要素分解で挙げられたキーワードや、自己紹介で知ったチームメンバーの強みを組み合わせながら、新しいビジネスモデルアイデアを創出していきます。

【アイデアディスカッション、アイデア整理】(75分)

その後再びグループワークを行い、個人個人が出したビジネスアイデアを発表しながらグループとしてのビジネスプランをまとめ上げていきました。

【全体共有】(10分)

最後に、各チームのビジネスアイデアを参加者全体で共有しました。スタートこそ同じテーマでしたが、各チームからはそれぞれ個性的なアイデアが発表されました。

~全体を通して~

あらかじめ各企業の特徴や強みを共有できていたこともあって、オンラインでありながらも実際に顔を合わせているかのように活発なやりとりが見られました。企業の枠を超えて率直なアイデアのやりとりをする機会は、普段あまり多くはありません。だからこそ、今回のワークショップは参加者にとって大変新鮮な経験となった様子でした。ほとんどの参加者から「分野の違う方々とのディスカッションは、刺激が多く参考になる」「いろいろなバックグラウンドを持つ方々と自由なテーマで議論する場は有意義だった」といった前向きな感想を頂いています。自社紹介や基調講演を含めてほぼ半日がかりという長丁場のイベントでしたが、間延びなく充実した時間だったと感じた参加者が多かったようです。

~各チームのJSOLサポーターのコメント~

Aチーム

ブレインストーミングのコツは頭の中でアイデアを考え続けるのではなく、すぐにアウトプットし、空いた頭でまたアイデアを考えることです。Aチームのメンバーはこのコツをすぐに掴み、より多くのアイデアを積極的に発散していました。各地のサイクリングコースの詳細データを活用した【プロと一緒に室内で自転車トレーニング】や、個人でも専門家の詳細なアドバイスを得られるようデジタルツインを用いた【土壌のデジタル化・デジタルツインで有機栽培】などのビジネスアイデアが生まれました。

【データ活用農業ランキング】

家庭菜園キット等を販売し、ユーザーに栽培してもらう。土壌の状態や栽培状態のデータをアップロードして点数化し、ユーザー同士でランキングを争う。野菜の栽培についてより多くのデータを集めることが可能になる。ユーザー側にはキットを購入することでプロの農業技術を知ることができるというメリットがある。最終的なビジネスアイデアをまとめるまでに、参加者それぞれの専門分野や知識を下地とした要素が多く出ていたため、より具体的なビジネスアイデアを構築することができました。

Bチーム

自社紹介で共有した参加企業様それぞれの強みや課題を、ものづくりの社会課題と関連付けた議論が印象的でした。チームメンバー全員が課題を自分事として捉え、より具体的な解決につながるアイデアが多く出ていたのもBチームの特徴です。

特に、研究機器ニーズに応じて企業や所属団体の枠を超えて、若手設計者や技術指導者を提供する仕組みをビジネスに落とし込むアイデアなどは、普段最前線で課題に直面しながらも、業務に携わっている企業だからこそ出てきたものだと感じます。

【技術のソフトウェア化】

日本の優れた技術を世界でより販売しやすくするためのシステムを構築する。単にハードを販売して終わりではなく、メンテナンスや保証などを含めてソフトウェアのように販売する。サブスクリプション方式を取ることで、ユーザー側には初期コストを抑えられるというメリットがあり、中小企業や発展途上国などのまとまった金額を出しづらい層もターゲットになりえる。売り手側にも継続した売上が入るというメリットがある。Bチームは課題を解決するために、ビジネスモデルでどのようなアプローチができるかを前向きに考えたアイデアが多く出ていました。チームメンバーからも「殻にこもっていると解決策を考えたつもりになって自己満足で終わりがちだが、他の参加者の意見を聞くことができて参考になった」という感想が聞かれました。

Cチーム

オンラインながらも議論が大変活発だったのがCチームです。声のやりとりに留まらず、文字や図形などさまざまな手法を用いてコミュニケーションを重ねました。参加者が他のチームより多かったこともあり、より熱のこもったディスカッションとなったようです。

【ウェアラブル型自動翻訳機】

イヤホンなどの形をした、手がふさがることのないウェアラブル型翻訳機を開発し、サブスクリプションレンタルを行う。すでに海外実習生が多い介護職や工場でのニーズがあるため、ターゲット層が顕わになっている。デバイス機器も既存のもので対応が可能と考えられる。Cチームのメンバーからは「制約条件を一度忘れて新しいビジネスモデルを考えるプロセスに面白みを感じた」「他のメンバーのいろいろな考え方を聞けたのが楽しかった」などという感想が聞かれました。今回のイベントでワークショップの意義を体感していただけたのではないでしょうか。

3.まとめ

山形先生よりイベントのまとめを兼ねて講評をいただきました。

「グループワークの発表では、3チームとも似たようなアイデアが出るかと予想していました。しかし実際には、それぞれ特色ある内容となっていて面白さを感じました。他者と議論をしてアイデアを深めていくことは発展に不可欠ですね」

参加者からは

  • 議論をすると思考が深くなることを体感できた
  • 技術職はどうしてもひとりで考え作業をすることが多いが、他人とアイデアを話し合うことで良い刺激を多くもらえた。会社でも取り入れたい
  • 分野の違う方々とのディスカッションは参考になった。次回は本当に儲かるビジネスモデルが構築できるようなワークショップだとより楽しく取り組めると感じた

などのポジティブな感想を多くいただきました。